東京大学大学院 新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 人間支援デバイス分野

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 人間支援デバイス分野

研究紹介

深層強化学習による超音波モータ制御システム

超音波モータは一般的な電磁モータとは異なり、超音波振動を利用してロータを摩擦駆動する原理で、重量当たりのトルクが大きく、小型化が可能で、高速応答性に優れているという特長を持っています。この日本発の大変魅力的なモータは、強力超音波デバイス応用として非常に重要な研究トピックです。しかし、これらの優れた機能にもかかわらず、入力電圧信号に対する回転出力の関係に強い非線形性やヒステリシスがあること、さらに温度上昇に伴うパラメータ変化があることなどから、制御が難しいという本質的な問題がありました。 我々はこの制御困難性を克服するために、機械学習法のひとつである深層強化学習に着目して研究を進めています。今までの成果として、温度変化や外乱に対して高い柔軟性を持った優れた速度制御性を実現することができるようになり国内外の研究者から着目されています。また、本手法は速度制御だけではなく、トルク制御、位置制御、コンプライアンス制御、効率最適化などが可能であることを実証しつつあります。この研究によって、例えば遠隔手術等での距離の離れた患者と術者をつなぐ力覚提示デバイスや手術ロボットへと応用が期待できます。



集束超音波による溶血プロセス

 赤血球内部のヘモグロビン検査等を行うために⾚⾎球表⾯膜を取り除く溶血プロセスが一般に行われています。薬剤利用による他の血液検査への影響を防ぐ必要がある場合、強力超音波による溶血プロセスが用いらますが、ランジュバン振動⼦による強⼒超⾳波照射が用いられてきました。我々の研究では、溶血プロセスにおける駆動周波数最適化などに関する基礎的メカニズムの解明を目的として、放物面反射集束に基づく流路一体型のトランスデューサーの流路型SPLUS(Single Parabolic refLectors wave-guided high-power Ultrasonic tranSducers)を提案しています。従来のランジュバン振動子では駆動周波数が数10kHzに固定されていましたが、提案した流路型SPLUSでは数10kHzからMHz帯で広い帯域で振動モードを持っており、最適な周波数をより広く探ることができます。また、小型で高効率なデバイスを実現することで携帯型血液検査デバイスへの応用も実現できると考えています。このように、新原理の強力超音波デバイスを提案し、これを医学応用デバイスへと応用研究することが本研究室の特長の一つです。



新駆動原理アクチュエータ(R-SIDM)/共振周波数制御

小型化が可能なリニア圧電アクチュエータの一つとしてSmooth Impact Drive Mechanism (SIDM)がある。これは、圧電素子をゆっくり伸ばして急峻にもとに戻すノコギリ振動波形によって、スライダとステータの間にスティック・スリップ現象をおこすことで、スライダを両方向に駆動することのできるアクチュエータである(左図)。本研究で提案する共振駆動型SIDM (R-SIDM)アクチュエータでは、このノコギリ振動波形を周波数比1:2の共振駆動の波形重ね合わせによって実現することを提案している。共振振動を使うため、従来の方法よりも低電圧駆動が可能になるとともに、 温度上昇も大幅に減少させることが可能になった。しかしながら本原理を利用するためには、共振周波数が1:2となるよう振動子を設計する必要がある。また、振動子に高電圧を印加すると設計した共振周波数が微小に変化する減少が生じてしまう。そこで、中央図のように振動子に共振周波数調整用の圧電部を設け、共振周波数の変化を補償する手法を提案している。本手法では、調整用の圧電部材にFETを接続し、このスイッチングのデューティ比を制御する(右図) 。これにより圧電部材のスティフネスの変化を通して振動子の共振周波数を制御することができる。この手法は、R-SIDMのみならず、共振周波数変化を伴う幅広い強力超音波デバイスに応用されることが期待できる。



水熱合成法

圧電材料はそのシンプルな構成からマイクロマシン構成要素として有望で、厚膜技術が不可欠です。 ゾルゲル法、スパッタ法、CVD法などが研究されていますが、我々は水熱合成法をいう面白い特性をもつプロセスに注目しています。水熱合成温度が150℃で、他のプロセスが600℃以上低く、極めて高品質な成膜が可能です。さらに、曲面に成膜が可能という特長もあります。 今までに、この薄膜のマイクロ圧電アクチュエータへの応用や、強誘電体メモリ媒体への応用に成功しています。
最近では、超音波照射しながら成膜を行う反応容器を独自開発し、表面の凹凸が平滑になり、水熱合成反応が促進されることを見出しました。現在、この技術を非鉛圧電セラミックにも応用・展開しています。また、圧電セラミックPZTは鉛を含み、環境負荷が高いことが問題ですので、ニオブ酸カリウム(KNbO3)系セラミックスを、独自開発した超音波アシスト水熱合成法によって合成・評価することを研究しています。



非線形圧電振動評価

近年、圧電材料を医療用超音波メスや超音波モータ等の強力超音波デバイスに応用する需要が高まっている。これらの強力超音波デバイスにおいて、圧電材料が大振幅励振される際には、発熱の増加や共振周波数の変化、振動速度・電流のジャンプ現象等、小振幅励振とは異なる多くの非線形特性が表れる(図1)。しかし、このような圧電材料の非線形特性を定量的に評価する方法は確立されていないため、ハイパワー用途に用いる圧電材料であっても小振幅励振時の特性を基準に選定され、デバイスの設計についても非線形特性が考慮されていない。そこで本研究では、圧電材料の非線形特性の要因となる高次弾性・発熱の影響に着目し、圧電ハイパワー特性をモデル化・定量評価することを目的としている。 まず、単板圧電振動子(図2a)の等価回路中の回路パラメータを、歪みに応じて変化するパラメータとした非線形圧電等価回路モデル(図2b)を考案し、モデルの妥当性を実証した。これにより圧電材料の非線形特性の定量評価を実現した。さらに、多様な形状に対応が可能な分布定数系モデル(図3)を考案することによって発熱の影響も同時に考慮することが可能となった。本手法を用いて実際の駆動状況に近い手法でデバイス設計を行うことで、超音波デバイスの性能向上に貢献が期待できる。また、汎用の圧電材料は鉛を含んでいるため健康被害が懸念されているが、非鉛圧電材料は鉛系と比較して圧電性では劣るものの非線形特性に優れる材料も多く、本評価手法を材料開発プロセスに用いることで、非鉛圧電材料の早期実用化が期待されている。



圧電マニピュレータのセルフセンシング

手術支援ロボットや電子部品実装機など様々な分野において、小型マニピュレーション技術のニーズが高まってきているが、把持状態や把持対象物の柔らかさなどを検出するためにマニピュレータに様々なセンサを取り付けることは、デバイスの小型化を妨げる要因になってしまう。そこで本研究では、機械てこにより圧電体の変位を直接拡大してグリッパの開閉を行う小型圧電マニピュレータにおいて、アクチュエータとしての圧電体を同時にセンサとしても利用するセルフセンシングシステムを提案した。対象物接触時の機械的境界条件の変化を圧電体の電気的周波数特性の変化として検出することで、対象物の機械的インピーダンスを求め、対象物の柔らかさや粘性を推定することができる。本手法では、その電気的特性検出用の微小交流電圧を、グリッパ駆動用の電圧に重畳して印加することで、一つの圧電体のみを用いてグリッパ駆動と把持対象物のセンシングを実現する。この提案原理により、変位拡大機構付き圧電アクチュエータの先端の接触状態を鋭敏に検出することに成功し、現在マニピュレータの設計および柔軟対象物の機械的インピーダンスの検出に取り組んでいる。